ごあいさつ
国際芝草学会(ITS)は、芝草科学の研究と教育を推進し、芝草の生産と利用のあらゆる場面における芝草の研究および情報を発表する国際会議を開催することによって、国際的な芝草研究者との有効な人的交流を促進することを目的として1969年に設立された非営利の科学団体です。この目的を達成するため、国際芝草研究会議(International Turfgrass Research Conference, 略称ITRC )は4年間隔で開催されています。過去の開催地は、イギリス(1969年)、アメリカ(1973年、1993年、2017年)、ドイツ(1977年)、カナダ(1981年、2001年)、フランス(1985年)、日本(1989年)、オーストラリア(1997年)、イギリス(2005年)、チリ(2009年)、そして中国(2013年)で、直近の2022年には、デンマークで開催されました。次回2025年は日本での開催が決まり、1989年以来36年ぶりの開催となります。
芝草に関する技術が,近年飛躍的に進歩してきたことはご承知の通りです。これまで日本では,芝生は日本庭園等の観賞,のり面緑化等の防災への利用が中心でした。その後、1980年代後半のゴルフブームをきっかけに,芝草のスポーツターフへの利用が盛んになり,近年では世界大会で優勝するプレーヤーまで現れるようになり、芝草は私たちの生活により身近な存在と感じられるようになりました。また,1993年のJリーグ発足を契機に,全国各地に天然芝のサッカーグラウンドが造成されました。美しく緑に維持・管理されたサッカー場の芝生は、けがを防ぎ,子供からプロ選手までが安全かつ快適に利用できるものであり,今日のサッカー普及に大きく寄与し,今では,多くの日本のプロサッカー選手が海外で活躍するようになりました。すなわち,日本におけるゴルフ場やサッカー場の芝草維持・管理技術の向上が、競技人口の増加と技術向上に大きく貢献したといえます。我が国では2019年にラグビーワールドカップが、2021年には東京オリンピックが開催されました。スポーツの祭典における芝草の重要性はますます高まり,芝草・芝生の研究・技術開発の果たす役割はさらに大きくなることでしょう。さらに,植物は人の心を癒しストレスを和らげる効果を持つことが知られ,その効果は園芸療法として応用されています。このように,芝生は,「動」(スポーツターフ)でも,「静」(植物が存在すること)でも,人々の体と心に有益な効果を与えています。
一方,国際連合は,私たちの世界を変革するための持続可能な開発目標として,17のSustainable Development Goals (SDGs)を掲げています。SDGsを受けて多くの国では企業や団体が具体的な目標を設定しその達成のために取り組んでいますが,芝草関係者が達成に貢献できる項目がいくつもあります。例えば,「目標3:すべての人に健康と福祉を」,「目標15:陸の豊かさを守ろう」などは,その代表的なものです。また,芝草関連企業は,達成のための取り組みを通じ「目標8:生きがいも経済成長も」を達成できる可能性があります。私たちもITRC2025を通じて目標達成に努力してまいります。SDGsの精神のひとつに上げられるのは「企業は自らの財務状況にのみ注目するのではなく,環境や社会への責任を果たしているかどうかをも重視する」ことです。芝草関連企業がSDGsに取り組み、社会に有益な効果をもたらすことは環境負荷への低減や企業イメージの向上に貢献し,消費者がその企業の商品やサービスを選択し,企業に優秀な人材が集まることにつながります。
2025年大会は,日本国内外の研究者や技術者の英知を結集して,「今ある課題」の解決に挑戦し,その成果を披露するのみならず,産官学一体となり,緑地機能を最大限に生かしたみどり豊かな生活環境の創出に寄与する大会にしたいと思っております。
本趣意にご賛同いただける賛助会員および広く一般企業の方々に、後述の通り協賛金のご支援をお願いしたいと存じます。
日本芝草学会
会長 高橋 輝昌